蛮族の地下世界《ミストグレイヴ》

 蛮族の都、“霧の街”ミストキャッスルの地下にあるその世界には、蛮族が跋扈し、暴力と狂騒が支配している。

■歴史
 魔動機文明時代、“霧の街”はジーズドルフという名を冠した人族が暮らす都市だった。ジーズドルフは、魔動機文明時代の初期に『四祖』と呼ばれる兄妹によって建設された都市だ。
 四祖は、長子を“堅牢なる”ゾラエンデス、長女を“才知溢れる”セランシェ、次女を“猛々しき”スエラ、末妹を“慈愛深き”シェラシースといった。
 四祖の導きによって繁栄したジーズドルフは、後に共和制に移行し、最盛期を迎える。しかし、やがて政治が腐敗し、内乱が勃発。争いの中でダーレスブルグ王国の介入を許し、ほどなく王国の一部として併呑されてしまったのである。
 そして、地上から一掃されたはずの蛮族が大反抗に転じた<大破局>の時代。ジーズドルフは“翠将”ヤーハッカゼッシュ率いる蛮族軍の侵攻によって陥落し、<大破局>終焉から300年を経た現在も、蛮族が支配する“霧の街”ミストキャッスルとして悪名を響かせている。
 ミストグレイヴは、この“霧の街”の地下に存在する。元来はジーズドルフ創建当時に計画された地下都市だったものが、何らかの理由によって放棄され、封鎖されていたものを蛮族たちが利用しているものと推測されている。

■3つの階層
 現在、地下世界ミストグレイヴは3つの階層から成ることが分かっている。
 1つ目は「上層階」と呼ばれる階層だ。ここには多くの下位蛮族が暮らしており、また、わずかながら人族が奴隷として、あるいは蛮族の食料として飼われるように暮らしているらしい。これらの人族は、“霧の街”やその周辺から連れ去られた者たちだ。悲しむべきことに、人族の奴隷商人によって売られてきた者もいると言われている。
 2つ目の階層は「地下水路」だ。この水路は、ジーズドルフの上水道として整備されたものとされているが、今では水棲の蛮族や魔物の巣窟となっているらしい。
 3つ目の階層は「深層階」だが、ここに関する情報は極めて少なく、ほとんど何も分かっていない。恐らくは多くの上位蛮族が住んでいるものと推定されている。
 各階層はいずれも、大小いくつもの空洞と、それを結ぶ無数の通路によって形作られている。そのため、通路を通れなければ、それぞれの空洞の間を移動することはできない。
【ルール】騎乗の制限
 ミストグレイヴ内の通路は、部位数が2以下の騎獣なら騎手を乗せたまま問題なく移動できる。部位数が3以上の騎獣は、<騎獣縮小の札>で小さくしなければブロック間を移動できない。

■強者こそが正義
 強者こそが正義を定める ― それこそが、蛮族社会の鉄則だ。強者の暴力の前には、いかなる倫理も、情愛も、忠誠も意味を為さない。強者がすべてを得、弱者はすべてを失う。ミストグレイヴは、まさにそんな蛮族社会を象徴する場所である。
 それ故、上位蛮族とて安穏とはしていられない。彼らは常に反目し、隙あらば他者を蹴落とすことを画策しているし、下位蛮族さえも虎視眈々と上位蛮族たちの立場を脅かそうと企てている。
 そうした蛮族たちの地位を定めるひとつの指針となっているのが、彼らの主神たる“戦神”ダルクレムの神殿が授与している<勲章>だ。<勲章>には一般的なもので5つの等級があり、ミストグレイヴの蛮族たちは自らの『力』を誇示し、己の地位を保つため、より上位の、より多くの<勲章>を得るためにしのぎを削っている。もちろん、その最も一般的な手段は殺し、奪うことだ。
【ルール】追加戦利品:<勲章>
 ミストグレイヴで「分類:蛮族」の魔物を倒した場合、追加の戦利品として<勲章>を得られることがある。より強い蛮族ほど上位の<勲章>を持っており、これらを奪うことはPCたちの『力』をある程度、証明することにつながる。上位の<勲章>を持つ者だけが利用できる施設などもあるかもしれない。
 また、<勲章>は<赤銅勇士勲章(1250G)>のように一定の価値を持つ。ガメル銀貨の通用しない蛮族社会では、ある種の貨幣としても利用できる。

■バルカンとダークドワーフ
 ミストグレイヴには、他の地域では滅多に見られないバルカン族とダークドワーフが住んでいる。ミストグレイヴに赴くならば、彼らについても基本的な知識を持っておくべきだろう。

イグニスに忠誠を誓う蛮族 ― バルカン
 バルカンは、雄牛のような角、竜のような翼、赤黒い皮膚と鉤爪を持つ蛮族だ。神々を信仰せず、“第二の剣”イグニスに直接の忠誠を誓っている。炎に近しい種族であり、炎によって傷つかないばかりか、戦闘時には炎を纏う習性を持っており、その姿はある種の魔神に酷似している。ドレイクやトロールのように、個体による強さの幅が大きいのも特徴と言えるだろう。
 バルカンの多くは、弱者や意志の弱い者を嫌悪しているが、同族や実力を認めた者に対しては強い仲間意識を持ち、決して争わないと言われている。友誼を結ぶことができれば心強い相手だ。

闇に堕ちた古のドワーフ族 ― ダークドワーフ
 ダークドワーフは、かつて蛮族の王に忠誠を誓ったドワーフ族の末裔だ。ドワーフとほぼ同じ姿をしているが、長い地下生活のためか肌や体毛の色が薄い。また、ドワーフと異なり炎によって傷つく代わりに、ドワーフなどの普通の炎では傷つかない者をも焼き尽くす黒い炎を操ることができる。
 ドワーフは、ダークドワーフが同胞を裏切ったのは、蛮族の王が示した莫大な財宝に目が眩んだためだと信じ、彼らを激しく憎悪している。一方で、ダークドワーフは、彼らが地下生活を余儀なくされたのはドワーフをはじめとする人族のせいだと信じており、人族を敵視している。
 ミストグレイヴに住むダークドワーフは、人族でありながら優れた鍛冶師として蛮族同様に優遇され、唯一“炎武帝”グレンダールを信仰することを許されているという。

■ミストグレイヴにおける信仰
 ミストグレイヴの蛮族たちは、“戦神”ダルクレムを筆頭に“第二の剣”イグニスの系譜に連なる神々を信仰しており、“第一の剣”ルミエルに連なる神々を激しく敵視している。
 そのため、蛮族たちの前で、蛮族に敵対的な効果を持つ神聖魔法や、“第一の剣”の神々の特殊神聖魔法を行使することは自殺行為である。たとえ、それによって目の前の敵を排除できたとしても、周囲にはそれ以上の危険 ― “第一の剣”を敵視する無数の蛮族がいることを忘れてはならない。
【ルール】蛮族の目と神聖魔法の制限
 ミストグレイヴ内には、[蛮]アイコンの示されたブロックがある。このアイコンは常に不特定多数の蛮族の目があることを示しており、もし、[蛮]アイコンのあるブロックで【バニッシュ】や【セイクリッド・ウェポン】、及び“第一の剣”に連なる神の特殊神聖魔法を行使した場合、周囲の蛮族が一斉に襲い掛かってくる。蛮族の数はとても立ち向かえるものではなく、PCは即座に「逃亡判定」を行わねばならない。このとき、魔物レベルを「15」として扱う。
 [蛮]アイコンのないブロックであれば、これらの魔法を使っても周囲の蛮族に見咎められることはない。ただし、戦っている相手が蛮族である場合は、彼らを生かして帰すわけにはいかないだろう。蛮族の姿で“第一の剣”に連なる神聖魔法を使うPCたちの存在が知れ渡れば、以後の冒険においてさらなる危険を呼び込むことは想像に難くないからだ。

■蛮族たちの警戒心
 ミストグレイヴには、これまでにもいくつかの国から密偵が送られている。そのため、蛮族たちも密偵の存在をある程度は認識し、警戒しているはずだ。
 一方で、多くの蛮族たちは、人族の密偵の存在を軽視しているとの報告がある。とりわけ下位蛮族の多くは、人族がいれば一目瞭然であり、また脆弱な人族風情が数人潜入したところで大した問題にはならないとタカをくくっているらしい。
 しかし、上位蛮族ともなれば話は別だ。彼らは魔法やアイテムによって蛮族に変装し、紛れ込んでいる人族の密偵を警戒している。そのため、不審を抱いた者には汎用蛮族語ではなく、各種族の固有言語で不意に話し掛けてくることがあるらしい。このため、ミストグレイヴに潜入する密偵は、自らが変装する蛮族の種族言語に通じていることが望ましいとされている。
【ルール】PCに対する蛮族たちの反応
 <バルバロスブラッド>によって蛮族の姿に変身している限り、PCは上位蛮族として認識されるため、蛮族と出会ってもいきなり攻撃を受けることはない。
 多くの場合、下位蛮族は上位蛮族を恐れているため、戦闘は避けようとするし、戦闘になれば逃亡を選択するだろう。PCから何らかの要求や脅迫を受ければ、可能な限り従うはずだ。
 一方で、「知能:人間並み」以上の蛮族は、蛮族に変装している人族の密偵が存在することを知っている。彼らの前で不審な行動を取れば、正体を見破られる可能性がある。
 この場合、疑われたPCは「冒険者レベル+知力ボーナス」を基準値として判定を行わねばならない。目標値は「見破ろうとする蛮族のレベル+2d」だ。「知能:高い」の蛮族であれば、目標値を+2する。成功すれば何とか正体を隠しおおせたことになるが、失敗すれば姿を偽っていることを看破され、攻撃されることになるだろう。
 ただし、見破られた場合でも襲ってくるのは見破った蛮族とその仲間だけだ。<バルバロスブラッド>の効果は【センス・マジック】などに反応せず、観察によって見破ることはできても他者に証明することができない。そのため周囲に他の蛮族がいても、彼らからは蛮族同士の私闘に見えるのである。